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2026/4/30
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開業医のリアル |
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~ 医学と経営の両立の難しさ ~ ![]() ◆ 開業医という立場の現実 開業医になって8年になりますが、これまでに感じてきたことを、少し率直に書いてみたいと思います。 開業医というと、世間では「近いから行く」あるいは「薬をもらうだけの」医療機関と見られがちです。たとえ私が総合病院の勤務医として長年経験を積み、専門医資格取得後に開業医になったとしても、患者さんは総合病院の研修医の方を信用することが珍しくありません。医師個人の経歴や専門医資格よりも、どの医療機関に勤めているかで医師の能力が判断されるのが現実です。そして、総合病院の勤務医からは、開業医というだけで「不勉強で金儲けに走っている」と上から目線で見られがちです。 名誉もない、信用もされない。それが開業医です。 ◆ 医学と経営のねじれが生む矛盾 そんな開業医は経営を成り立たせなければ、開業した意味がないという見方もあります。そのためには、どうしても保険診療の枠組みから逃れることはできません。そして、この仕組みの中では医学的に正しいことをしても報われないという矛盾が生じます。 たとえば、前立腺がん検診にも使われる「PSA(前立腺特異抗原)」という腫瘍マーカーがあります。血液検査で測定できる便利な指標で、PSAが高値であれば前立腺がんの可能性を否定できず、ガイドラインでも「要精査」が勧められています。医学的に正しい対応をするのであれば、泌尿器科に紹介して精密検査を受けてもらうのが筋です。 ところが、そのように早く紹介しても、患者さんにさほど感謝されませんし、開業医としての収入もそこで途切れてしまいます。それよりは、泌尿器科に紹介せず、3ヶ月ごとにPSAだけを測り続けていれば、その検査料金の収益は積み上がっていきます。医学的には正しくないと分かっていても、「検査を続けて様子を見ましょう」と言っておいた方が、経営的には得になる構造が存在するのです。 同じような構造は他にもあります。内視鏡検査では観察だけで癌だと分かることも多く、本来ならば、その時点で総合病院に紹介するクリニックがほとんどです。しかし、中には敢えて生検まで行い、結果が出てから紹介するクリニックもあります。生検を行えば検査料が加算されますし、結果が出るまでに2週間かかるものの、説明のために再度受診してもらえるからです。しかし、その患者さんはいずれにせよ、総合病院で内視鏡の再検査(生検を含めて)を行うことになります。患者さんの負担よりもクリニックの経営が優先されがちな構造があるのです。 また、症状がなかなか改善しないにもかかわらず、「毎日通って治療を受けましょう」と指示し、通院回数を増やすことで収益を上げるクリニックもあります。その治療が医学的に妥当かどうかよりも、医療機関の経営が優先されてしまう場面があるのは、残念ながら事実です。 さらに、医学的に正しくないことを患者さんが希望されている場合、その理由を丁寧に説明しても、受け入れていただけないことがあります。逆に、医学的に間違っていても、患者さんの言いなりになる医師の方が「良い先生」と評価され、そのクリニックの繁盛に繋がることすらあります。 こうした現実を見ると、「開業医として繁盛するには、医学的に間違っていても、保険診療という国の方針を上手く利用しながら、患者の言いなりになるべき」という、非常に皮肉な結論に行き着いてしまいます。 ◆ 私が選んだ医療のかたち もし私が、開業のために巨額の借金を抱えていたり、住宅ローンや子どもの教育費に追われていたとしたら、その道を選んでいたかもしれません。 しかし、私はこれまで身の丈に合った開業や生活をしてきました。だからこそ、誰にも忖度せず、医学的に自分が正しいと考える医療を、淡々と、マイペースに続けることができています。 当院は決して繁盛しているわけではありませんが、幸いにもそれで私自身の生活が困ることはありません。 当院には、元医大教授、歯科医師、薬剤師、看護師、放射線技師、介護士など、医療に携わる方々がかかりつけ患者として来院されています。医療の内部事情をよく知る方々が当院を選んでくださっているのは、当院の提供する医療が一定の信頼に足ると感じていただけているからだと、私は思っています。 開業医という立場は、時に誤解され、時に軽んじられます。それでも地域で暮らす人の健康を支えるという役割には、病院勤務医とはまた違う重みがあります。 これからも、誰に忖度することなく、自分が正しいと考える医療を続けていきたいと思っています。 |
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