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2026/4/23
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保険診療の厳しい構造 |
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~ 他業種にない独自の構造 ~ ![]() 医療の現場で働いていると、 「どうして医療だけ、こんなに複雑で厳しい仕組みになっているのだろう」 と感じる場面が少なくありません。 その理由は、医療が「公的保険」という特殊な仕組みの上に成り立っているからです。 この記事では、 ・保険診療の基本構造 ・薬局の収益構造 ・医療だけが抱える「異常な厳しさ」の正体 を、できるだけ分かりやすく、しかし根拠を持ってお伝えします。 (1)まず、「1割・2割・3割負担」とは何か 医療機関の窓口で、 ・1割負担 ・2割負担 ・3割負担 といった言葉を耳にします。 しかし、「残りの9割・8割・7割を誰が払っているのか」まで正確に理解している方は、実は多くありません。 結論から言うと、 ・1割負担 ➡ 残り9割を保険(国保・社保)が負担 ・2割負担 ➡ 残り8割を保険が負担 ・3割負担 ➡ 残り7割を保険が負担 つまり、医療費の大部分は「公的保険(国の財源)」が支えているという仕組みです。 そして医療機関は、患者さんからの自己負担分+保険からの給付分を合わせて「診療報酬」として受け取ります。 この「保険に請求する」という構造が、後述する「医療だけの厳しさ」を生み出しています。 (2)薬局はなぜ「損をしない」のか 医療機関と薬局は、同じ保険診療の枠組みの中にありますが、収益構造は大きく異なります。 特に薬局は、薬価差益(薬の仕入れ値と薬価の差)が制度上確保されており、基本的に損をしない仕組みになっています。
・ある薬の薬価が100円 ・薬局が卸から仕入れる価格が90円 ・患者さんに渡すときは薬価の100円で計算される ➡ 薬局は1錠あたり10円の利益が出る さらに、薬局では薬剤師の専門的な業務に対して、以下の技術料が加算されます。 ・調剤料 ➡ 処方箋に基づき薬を正確にそろえ、最終チェックを行う作業への料金 ・薬学管理料 ➡ 薬歴を確認し、重複や飲み合わせの問題を確認するための料金 ・服薬指導料 ➡ 薬の飲み方や注意点を説明し、安全に使えるよう支援するための料金 ここまでは制度上の「薬局の安定性」です。 しかし、ここで重要なのは、薬局が「保険病名が通ったかどうか」に関係なく損をしないという点です。薬価差益と技術料は、処方箋どおりに薬を渡した時点で確定します。 一方で、医療機関はまったく逆の構造になっています。医療機関が処方した薬剤については、その薬剤費が保険で認められるかどうかが「後から」決まります。もし病名が審査で認められなければ、その薬剤に対する保険給付は行われず、医療機関の収入が減る(=実質的な損失になる)という仕組みです。 さらに、この「非対称性」には歴史的な背景があります。1990年代以降の「医薬分業」政策によって調剤薬局は急速に拡大し、現在では大手チェーンが全国に数百~数千店舗を展開するようになりました。こうした薬局チェーンは、経営母体が一つで、利害が明確で、意思決定が速いという特徴があります。調剤報酬や薬価制度に関する要望も、企業として一本化しやすく、行政との調整も比較的スムーズに行える構造です。 一方で医師側は、診療科・地域・勤務形態によって立場が大きく異なります。たとえば、 ・内科と整形外科では必要とする診療報酬が違う ・都市部と地方では医療ニーズが違う ・開業医と勤務医では制度に対する関心が違う といったように、利害が一つにまとまりにくいという特徴があります。 このように、薬局は組織として意見をまとめやすく、医師側は利害が分散しやすいという構造が、制度上の扱いの違いとして現れています。 結果として、 ・薬局:薬を出せば利益が確定する(病名が通らなくても損をしない) ・医療機関:病名が通らなければ保険給付が行われず、実質的な損失が生じる という、同じ保険診療とは思えないほどの「非対称なリスク構造」が存在しています。 (3)医療だけが「提供後に値段が変わる」世界 一般のサービス業では、商品やサービスを提供した時点で料金が確定し、その場で支払いまで完結します。 しかし医療では、患者さんからの窓口負担を受け取った後、残りの費用を「レセプト」で請求します。 診療が終わり、患者さんの支払いも済み、医療機関が保険者へレセプト請求を提出した後でも、数ヶ月後に「算定不可」と判断され、保険者からの支払いが減額されることがあります。 これは他の業界では殆んど見られない仕組みです。
・飲食店:食べた後に「この料理は高すぎるので半額にします」と言われない ・タクシー:乗った後に「この区間は請求不可」と言われない ・弁護士:相談後に「この助言は点数不足なので報酬カット」と言われない 医療だけが、「提供後に価格が変わる」という異常な世界で運営されています。 (4)医療だけが抱える「後出しジャンケン」構造 医療の世界では、過去の請求にさかのぼって減額されるということも起こります。 たとえば、「1年前の請求について、やはり算定できません」という通知が突然届くことがあります。 これは、審査が「事後審査」であることが原因です。
・食べ終わった料理が後から「返金して下さい」と言われない ・完成した家が「この柱は算定不可なので返金」と言われない 医療だけが、「過去の売上が後から否定される」という極めて特殊な世界です。 (5)「動くゴールポスト」問題 診療報酬には、「基準が明確に公開されていない」という特徴があります。 そのため、 ・審査する側の解釈 ・国の財政状況 ・審査委員の構成 などによって、実質的な基準が変わるという現象が起こります。
「去年まで認められていた請求が、今年から突然認められない」 しかも、「基準が変わりました」という公式な通知が出るわけではありません。 医療機関は、「見えないゴールポストが動く」という状況の中で、日々の診療を続けています。 (6)なぜ医療だけがこんな仕組みなのか 制度の構造的な理由は以下の通りです。 ・医療は公的保険で運営されている ・国は医療費を抑えたい ・医療機関は価格を決められない ・審査基準は公開されていない ・審査側が一方的に減額できる ・事後審査で過去にさかのぼれる ・審査委員の裁量が大きい この組み合わせが、医療だけが「異常に厳しい世界」になっている理由です。 ◆ おわりに 医療制度は、外から見ると分かりにくい部分が多くあります。 今回取り上げた ・保険診療の基本構造 ・薬局の収益構造 ・提供後に値段が変わる ・過去にさかのぼって削られる ・動くゴールポスト という特徴は、医療の世界が抱える「構造的な不思議」の一部にすぎません。 制度の仕組みを少しでも知っていただくことで、医療の現場が置かれている状況をより理解していただければ幸いです。 |
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